―― 2.アンネと家族 ――

座談会11

―― アンネと自分は似ている?

野本:うーん、そうですね。思ったことをすぐ言っちゃうところは似ていると思います。

田上:私はわりといつも考えてるんです。自分のこととか周りの人とか、それがもっと飛躍して「社会の中にいる自分」とかまで。
でも結論は出ないので、考えこんでしまった思いをぶつけるために日記を書いたりして。だからそういう気持ちは共感できますし、似ていると思いますね。

山下:確か「アンネの日記」もずいぶん昔に読んでるんだよね?

田上:はい。私、ひまわりに入るきっかけが『アンネ』といっても過言ではなくて。
高校1年生の時、夏休みの読書感想文の課題で「アンネの日記」を読んだんですね。アンネの夢に「自分が死んでからも生き続けること」っていうのがあるんですけど、それを読んで私も「自分が生きた証を残したい」と思ったんです。作品を通して誰かの心に残ったり、誰かに影響を与えたりすることで自分が生きた証を残せるんじゃないかって。これを職業にしたいと思って、その秋にひまわりに入団しました。

山下:素晴らしいね。「私の望みは死んでからもなお生き続けること」というアンネの言葉は横山さんの戯曲の中にちゃんとあるよね。その台詞を舞台上で言えるってすごく幸せなこと。
初演も観てくれたんだよね。

座談会12田上:はい、ちょうど大学受験のために福岡から上京していて。
「アンネの日記」って聞くとみんなが戦争とか迫害の暗いイメージに焦点を当てちゃう。
私も読む前はそういう物語だと思っていたんですけど、原作を読んだ時にびっくりしたのは「あっ、1人の少女がそこにいるっていう物語なんだな」って。
舞台の『アンネ』はそこに焦点を当てていて、それが本当に面白く伝えられる。

山下:「アンネの日記」翻訳者の深町さんに台本をお送りしたら、「思春期の豊かな感受性、想像力に焦点をあてていることを読み取って下さった。そしてそれは私の本意だからすごく嬉しい」という感想を頂いたんだ。すごく嬉しかったですね。

―― Wキャストについて

上野:みんなは入れ替わるけどオットーはシングルだから僕だけ変わらない(笑)。
オットーさんという人は実在の人物じゃないですか。だから最初は彼に近づかなきゃいけないのかなと思ってたんですけど、全然違う2家族だし、やっぱり無理だなと思って。

横山:実は、その全然違う家族が2つ成り立つっていう仕掛けが、ある普遍性を生むんですよね。
これはアンネ・フランクの一家の特殊な物語ではなくて、そんな家族がたくさんいたってこと。だから全然違う2つの家族があっても良いようになっている。
結局、リアルを追い求めようとすると見失っちゃう。逆に人間としてのリアルがあれば、オットーのリアルはいらないんじゃないかと。

座談会12―― 緊張した状態の中で家族をまとめていく責任とは?

上野:どうなんですかね。そうせざるをえないっていうことなのかも。
台詞にも「大丈夫だ」とか「みんな落ち着いて」という言葉がすごく出てきて、その台詞を言うためにしっかりしなければと思っているので。

山下:オットーさんもアンネと同じように細やかな感受性を持っていた人で、一面的に言えば神経質ともとれる人。だけど隠れ家に入った時に払拭したんです。
自分がここの中心として芯のようにいなきゃいけないっていう自覚を持った。

横山:そこでスイッチが入った。「家族を守る父親」を演じていたというか、なりきっていた。
それは美しいし、すごいことですよね。

山下:オットーさんは家族の中で1人だけ生き残るでしょ。
たぶん持って生まれた生命力や生きる意欲が強い人だったと思うんですよ。そういう人が1人いるだけで周りが自然に調律されてしまうような存在。
上野さんはもちろんパパ役には若いんだけど、声を聞いていると精神の奥行きを感じる。
そんなことを考えてキャスティングしました。

上野:オーディションの時はちょっとひげを伸ばしたり、髪型を7:3分けにしてみたり、シャツ着たり、背伸びをしてみたんですけど。でも今仰っていただいたように、オットーになる必要はないんですよね。ヒトラーにしても郷本くんじゃ背も高いし格好よすぎるし(笑)。


―― 3.劇団ひまわりで上演する『アンネ』 ――

座談会21山下:今まで僕はわりとシェークスピアとか普遍的なテーマ性を持ったものにしか興味がなかったんです。思春期の子たちをセンターに持ってくるプログラムは『アンネ』で代表に声をかけていただいたからなんです。でもすごく新鮮で、若い世代が中心を担うという物語がひまわりにもすごく合ってる。
この戯曲自体が「アンネを支えていく」っていう構造になっているから、物語の構造と稽古場の構造が同じになっている。横山さんの戯曲の力なのかもしれないけど、助かってます。

横山:作品と一緒に2人のアンネが伸びていくところが醍醐味だと思うんですよね。

―― 初演の時は俳優たちがすごく成長したそうですね。

代表:本当いうと、あそこまでできると思ってなかった(笑)。
でもまぁ、きっとできるよ。みんなそういう風に育ってきたから。今回も期待してます。

座談会22上野:山下さんが演出する舞台は、出演者が生き生きしていてすごく面白かったんですよ。今回、「ひまわりっていい役者がいっぱいいるじゃん」って思える稽古場で、久しぶりに爆笑したり。普通Wキャストだとトゲトゲすることもあるんだけど『アンネ』ではどんどん交流し合ってるし、本当に自分を出しやすいっていうか、楽しい。

代表:出せる機会があれば出せるんですよ。ただ、1回上手くいったから次もうまくいくとは限らない。子役がうまく成長していくかどうかは、慣れとの闘いですよね。油断を捨てて常にリセットしていくことが大事。

山下:僕の仕事は、極論しちゃうと「役者が本当にこの台詞を自発的に言いたくなる気にさせる」ってことに尽きるんですよ。台詞だけでなく全てですけど。そのために問いかけて一緒に考える。驚くのは、僕が問いかけると田上もほたるも間髪いれず答えが返ってくるんです。
それは『カラフル』で真役を演じた田中雄土と井之脇 海も同じで本当に感心したんですよ。

代表:それは山下さんの力もあるよね。距離感が縮まらない人もいるでしょう。

山下:若いところから育てているひまわりの潜在力は宝の山みたいなんですよね。演出家として嬉しいです。自分の事はさて置いて(笑)、引き出す人がいれば本当にすごいことができる。

代表:ポテンシャリティが高いんだよね。やらないと単なる可能性で終わっちゃうけど。

山下:おかげで『アンネ』はいい空気でいっていると思います。まだ、もう1つ2つ3つあがっていかないと駄目だけど。

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